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「女を読む」久世光彦

光文社の『BRIO』2003年6月号で、故・久世光彦さんは、ご自身の連載ページ「女を読む」にて拙著『えろきゅん』をご紹介下さっていました。
このたび久世さんの奥様、朋子さまのお許しを得て、本blogにそちらの文章を転載させて頂ける運びとなりました。
「久世の文章が多くの人の目に触れるのは喜ばしい事」と、ご快諾下さった久世朋子さまと、「著作権を有する奥さまのお許しがあれば、我々は構いません」と、同じくご快諾下さった光文社『BRIO』編集部に深く感謝致します。

えろきゅん
『えろきゅん』川上史津子 著
「女の恋はいつも、あっけらかんとしていてエロティック」。Amazon.co.jp歌集部門で第1位となった『恋する肉体』でブレイクした、自称「日本一のエロ短歌女優」と語る著者の、短歌&短篇集。 講談社/定価1,300円


「女を読む」   久世光彦
  ―男の性感を目いっぱい刺激する
             女の<エロ小説>―

前にこの人のはじめての歌集「恋する肉体(からだ)」を読んだことがある。ご本人が<エロ短歌>と自称するだけあって、三十一(みそひと)文字が一画一画、濡れていた。
特に平仮名からは、雫が垂れているようだった。たとえば
≪最後まで髪は掴(つか)んだままでいて/アタシが塔から落ちないように≫≪抱きしめて這わせて噛んで抉(こ)じあけて/掴んで裂いて突いて殺して≫――略歴を見ると、作者と私は干支(えと)でいう三回り、つまり36歳も年齢が離れているのだが、温度や感触や匂いという点でのギャップをまったく感じなかったばかりか、私はずっと以前からこの女(ひと)が、膝を抱えて私の背中に凭(もた)れかかっているのに気づくのだった。
これは<老人殺し>の歌かもしれない。それなら気をつけてかからねばならない。

そしてそれから一年経って、こんど出た「えろきゅん」は、アフォリズム(箴言(しんげん)めいた行為の最中の会話や、女の独り言が、節度なく飛び交う空中に、突然一首の短歌が炸裂するという、危険な花火みたいな奇態だった。≪吸われてる私の方がなんでだろ? おいしい水を飲んでるみたい≫――古来、女によって書かれたエロ本、あるいはエロ小説というものは、決して男を勃(た)たせないと私は思っている。女が感じているかどうかにはとても関心があるのだが、こう感じている、だからこうしてと言われると、途端にしらけて萎(な)えてしまうのだ。それを女が読んだらどんな反応があるのかは、私が女でないからわからない。だが、少なくとも女が書いた被虐的なエロ小説に、男は冷酷なくらいに反応しないものだ。男が勃つのは、その逆の、男の加虐の目が見据えた女の姿態なのだ。――ところが、「えろきゅん」の断片的なフレーズは、たぶんセンテンスではなくフレーズゆえに、男の性感を目いっぱい刺激するから不思議である。ここに<例外>が現れた。

「えろきゅん」の意味は、おそらくその一点にある。この作者は、言わば女の一人称でエロを書いて、奇跡のように男を勃たせながら、自分ではちっとも昂ぶっていない。三十一の文字は濡れていても、心の底は冷え切っているらしい。それが<表現>というものの奇妙な秘密なのだろう。――余談だが、私は高校生のころ、かなりのレヴェルのエロ小説を書いたことがある。友だちにあまり評判がいいので、四、五篇は書いた記憶がある。ガリ版でいくら増刷しても足りなかった。どれも彫心鏤骨(ちょうしんるこつ)の加虐の王道をいったもので、もしかしたら私のいちばんの傑作は、五十年前のこれらの作品かもしれない。
あれは誰もが一度は書きたくなるものらし。けれどエロ小説の不思議は自分で読んでまったく勃たないところにある。当り前の話だが、次のシーンで起こることが、読む前からわかってしまい、文章の細部まで諳(そら)んじてしまっているから、興奮どころか、面白くも可笑(おか)しくもないのだ。友だちが喜んでくれたからよかったが、ああいうのを<徒労>というのだろう。

「えろきゅん」は徒労ではない。面白くて、ちょっとドキドキして、そのくせ妙に深刻だ。<冷えた諧謔>とでもいうのだろうか。≪炯(ヒカ)ル目ニ気付カナイ振リ知ラヌ振リ/花ヲ召シマセ召シマセ吾(ワレ)ヲ≫―― この作者が<いまの短歌>という天体の、どんな位置にいて、どんな光り方をしているのか、私は知らない。たぶん、あらゆる星座から離れたところで、ちょっと投げやりに光っているのだろう。それでいいのか、それでいけないのか――私には、それもわからない。ただ、「えろきゅん」は私に、兎にも角にも<光>を届けてくれた。それでいいではないか。それだって奇跡に近いことなのだから――。


くぜてるひこ
’35年東京生まれ。演出家・作家。「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」などでドラマ界に一時代を築いた後、独立。「KANOX」を設立。作家としても精力的に活動し、受賞も多数。近著に『飲食男女―おいしい女たち』(文藝春秋)がある。

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コメント

はじめまして
私もブログを始めました。
「植物性乳酸菌 オーガニック ダイエット」っていいます。
オーガニック&ダイエットっていい感じでしょ!
オーガニックの植物性乳酸菌。
ぜひ一度遊びに来てくださいねっ。

植物性乳酸菌 オーガニック ダイエット

投稿: 植物性乳酸菌 | 2006/07/03 22:35

あ~あ、このトラバ最悪・・・(-_-メ)
許せないのはわたしの大切な久世さんとの思い出のエントリを土足で踏みにじるような真似をしたこと
だって最新の日記にトラバしてるんじゃないんですからね! 自動的に投稿しただとか云わせないですよ

アチラに文句の一つもコメントしてやろうかと乗り込んでみたら、アメブロメンテ中ですって!
悪運の強いことで(←我ながらキツイ性格です、ハイ(^O^;)

投稿: し~ちゃん | 2006/07/04 03:02

初めまして。SUGIOです。
久世さんにここまで言わしめる「えろきゅん」、是非読ませてもらいます。
私も男の目線で正直に性を書いて見たいのですが、なかなかうまくいきません。
時々寄らせてもらいます。

投稿: SUGIO | 2006/07/06 20:39

>SUGIOさま
初めまして! コメントありがとうございます~
是非「えろきゅん」のご感想もお寄せ頂ければ幸いです

奥さまと仲良しなのですね~♪ 素敵です
わたしにも早くそんな旦那様が現われますようにいっ!
(↑魂の叫び(^O^;)


さて、大変申し訳無いのですが SUGIOさまの
blogは直接的な性表現が多くていらっしゃいますので
リンクを外させて頂きます 
本blogに関しては、わたしの中で 子供さんから
お年寄りまでお読み頂けるものとして位置付けております

何卒ご理解頂けますようお願い申し上げます

投稿: し~ちゃん | 2006/07/07 01:30

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